炎川沿線

右手中指に黒い指輪をしたり、外したり。

誰かの普通と私の違和感

恋人ができて、少し前にお別れをした。初めてだった。人に好かれるということ自体が初めてだったと思う。そして、初めて自分がマイノリティである可能性を自覚した。アセクシャルかもしれないこと、アロマンティックかもしれないこと。まだはっきりとは言えないから「かもしれない」としておくけれど、とにかく今まで私が視野に入れていなかった「当たり前」や「普通」と対峙してめちゃくちゃ悩んだ。その話を少しだけ書き残しておきたいなと思う。

 

ひとつ前のブログで書いたとおり私は昔から恋愛ごとに関心が薄くて、恋人が欲しい・結婚したいという感情が20代半ばにしてほぼ無い状態だった。そしてその感覚を「普通」だと思っていて、恋人を作り結婚していく同世代や職場の人を見ても「そっか〜この人も結婚したいのか〜凄いなァ」なんて他人事に眺めている程度で、本当にどうでもよかったのだ。仕事の悩みでいっぱいいっぱいだったし、打ち込みたい趣味もあったし、異性に好かれるタイプでもない。人肌恋しくもない。私は一人で生きていくんだとずっと思っていてそれが当たり前だったから、ただ自分の生活を整えようと必死だった。

 

 

告白してくれた人とは考え方や好きなものが近しくて、コミュニケーションを避けがちな私がなぜかどうでもいいことを共有したり、ちょっとした気持ちを打ち明けることができる相手だった。私と全く違う趣味や価値観を持ち合わせていて、それも新鮮に映った。嘘偽りなく私は相手に関心を持っていたし、彼と会う日を楽しみに過ごしていた。本当に優しい人だった。でも、付き合いたい、と言われた私が感じたのは「やっぱりそうなのか」と「なんで恋人に?」だったと思う。彼とは一緒にいたい気がする、でも恋人になるって何??って気持ち。今のままで良い気がするけど…でも彼は付き合いたいと言っている…。できることなら「はい」も「いいえ」も言いたくなかった。彼が誰でもいいから彼女を作りたい!とか今すぐホテルに行ってヤリたい!みたいな人だったならすぐにでも断って逃げ出していたと思う。でもそんな人ではなかったし(まずそんな人は私に目を向けないだろう)、ここでいいえと答えてこの人との関係がここでバサっと終わったり、一緒にいて楽しいって気持ちはお互いに同じはずなのに急にここで嫌な記憶に塗り替えられてしまうのだけは私が嫌だと思った。だから、これまで恋愛に興味がなかったこと、自分は一人で生きていくんだと思っていたこと、だから今どうしようか答えがすぐ出せない、、みたいなことをなんとか伝えた。

 

貴方にとって付き合うってどういうこと?みたいな話もした。私はよく分からない…と。でも、そこで彼が言った返答は、それなら付き合うって素敵かも、とこんな私でも思うような言葉選びだった。この時点でもっと色々気付けていたらどうだったんだろう?と今になって思うけど、彼と話をしながら私は少し期待をしてしまった。この人となら私も「恋人」や「恋愛」ができるのでは?もしかしていつかは結婚願望も湧くのかな?なんて。言うならば、スポーツに興味はないけど好きな人に誘われたからやってみようかな、この人となら楽しめるかも!みたいな。軽すぎるかもしれないけど、彼が言うならやってみてもいいかも、できるか試すなら彼だ、と思ったのは正直な気持ちだった。

 

そしてお付き合いをした。自分が相手の恋人である、という違和感は始めからずっとあって、相手が言葉で好意を伝えてくれても中々同じように返すことは出来なかった。でも、楽しくなかったと言ったら嘘になる。証拠としてものすごい勢いで体調が良くなり体重も増えた。相手のことを知っていくのは楽しかったし、思い出も増えていった。彼の好きそうなものを選んで贈ったり、良い音楽を見つけたら勧めたりした。彼といるときも離れているときも、やたらニコニコしていたと思う。服を買ったりマメに美容院に行くようになったからか、珍しく職場で容姿を褒められることまであった。本当にこれでいいのか、私でいいのか、私はうまくやれてるのか…なんて不安や疑念は拭えなかったけど、彼と過ごす中で幸せに感じた瞬間や心地よい時間は本当にいくつもあって、大事にしたいと心から思った。だからこそこの不安や違和感も次第に薄れていくんじゃないかと思っていた。

 

でも、いくら経っても私は「恋人だからできること」「恋人なら普通やりたいと感じること」には積極的になれなかった。悩みを聴くこと、最近あった話をすること、出掛けること、同じ時間を過ごすことだけで十分だった。好きだと言い合うこと、手を繋いだり触れ合うこと、そしてそれ以上の接触はいつまで経ってもしたいと思えなかった。楽しさで紛らわしていたけど、薄々おかしいと思い始めた。私は相手を好きじゃないのか?私がおかしいのか?悩みつつ隠して過ごした。後から聞いたら彼は私が内気な性格なんだな、と捉えていたらしい。そして数ヶ月して彼から「炎川のペースを尊重するけど、俺はもっと近づきたいと思っている(意訳)」と言われたとき、「とうとう来てしまった」「だめかも、やっぱりしたい気持ちが湧かないよ」と思ってしまった。当初ボディタッチも少ないタイプだったからもしかしてそういう欲求がない人?と初めはほのかに期待したりもしたのだけれど、彼にとっての恋人がそういう行為を伴うものだということはお付き合いをしていく中でもう分かっていた。そう思ってるだろうなというのは一緒にいてすごく感じていたし応えたいって気持ちはあった。喜んでくれるだろうし。普通のことだ、恋人だし。そして「恋人=触れ合う、そういう行為をする」は世間一般の当たり前でもある、そのくらいは知ってる。でも、したいと思えない。あ、やばい、外れているのは私だ、間違っているのは私じゃんって思った。アセクシャルって言葉は知識としてなんとなく知っていた。告白されたときにももしかしたら?と少し頭をかすめた言葉だった。まあでも私好きな人いたことあるし(※この話もいずれしたい)、恋愛に関心がなかっただけかもしれないからまだ分からないよな、と保留にしていた。でも、ここにきてこれは「ぽい」な??と思った。だめだ、もしかして私は好きじゃないのに彼の恋人になってしまったことになるの??と思ってハッとした。全部わからなくなった。

 

その違和感を確かめてすり合わせて相手に共有していく作業は本当にキツくて、せっかく増えた体重が戻ってしまうほどだった。この話については別のタイミングでゆっくり書こうと思う。中途半端だけど、ここで休憩します。では。