炎川沿線

右手中指に黒い指輪をしたり、外したり。

恋愛のステージに立ったことがなかった

恋バナというものが昔から苦手だった。両親は私のそんな性質を察していたのかそういう話をほとんど振らなかったけど、幼稚園か小学生くらいの頃に親戚に「好きな子はいないの?」と訊かれて「そんな話振らないでくれ、誰が話すかよ!」と幼心に思った記憶がある。学生時代にクラスメートの中で恋バナが始まったら必死に自分の存在感を消して聞き役に回るか、そっと輪から立ち去るかの二択だった。自分の話をしたことはほとんどなかった。異性にモテるタイプでなかったこともある。恋愛というのは自分が口にすべき話題ではなく魅力のある可愛い女の子たちのためのものだと思っていた。

 

幼稚園から小中高、大学に進む中で好ましいと思う異性が全くいなかったわけではない。好ましいな、良いなと思う異性は「好きな人」だと認識していたし、異性だけでなく同性でもいいなと思う人がいたら「好きだなぁ」と思ってニコニコしていた。でもそれを本人に伝えることはしなかったし、周りに打ち明けることもほぼなかった。好きな人を明かすと「その人以外は好きじゃない」という意味になってしまうんじゃないか?ということを小学生あたりから疑問に思っていた気がする。Aくんのことを好ましく感じているけど、だからってBくんやCくんのことを嫌いなわけではない。「炎川はAくんが好き」だと周りに伝わったらAくんはどう思う?BくんやCくんはどう思う?「好きな人」を一人に決めて発信するのってメリットなくない?どうして順位をつけないといけないんだろう?…みたいなことを考えていた。揉め事も苦手だったから、例えばDちゃんがAくんを好きだと言っている時に私もAくんが好きだと言ったら敵対視されたりするんでしょ?そこまでしてAくんが好きだと主張したくないよ…何でそんなに好きだと伝えることにこだわるんだろう…とかも思っていた気がする。ここまで読んでいただいた時点で大多数の方は違和感に気付かれるだろう。私も今振り返ると明らかに周りと感覚がズレていたんだろうなと思う。でもその疑問さえ口にしなかったから、周りが言っている「好きな子」「好きな人」と私が認識している「好きな子」「好きな人」の意味合いが違うということにはずっと気が付かなかった。

 

同性ばかりの地味なグループに属してほぼ異性との関わりがなかった中学・高校。女性比率の高い学部に入学した大学時代。その時々で私の中で「好きな人」と呼べる存在がたま〜に現れたりはしたものの、誰かに告白することもされることもなく卒業して社会人になった。恋人はいなかったけれど、私には居心地の良い関係性の同性の友人が数人いることで充分だったし、好きな趣味もあった。趣味関連でちょっとしたネット上のコミュニティも持っていた。周囲に恋愛をする人間がゼロというわけではなかったけれど、意識に上がることがほとんどないと言ってしまっていいくらいには恋愛から遠ざかっていた気がする。そう、社会人になって異性に告白されるという初の恋愛イベント(?)が起こるまで私は恋愛のステージに立ったことがなかった。私って周りと違う気がするな、と感じる細かい出来事はそれまでにいくつもあったものの、自分は恋愛ごとに関心が薄いだけの普通の人間だと思って過ごしていた、「好きな人」もいたし。そうして恋愛の当事者になって人と関わってみて初めて、ようやく自分と周りの認識の違いを自覚した。その発見はここまで記述した過去の思い出が白から黒に塗り替えられるような強い衝撃で、正直かなりショックだった。めちゃくちゃ悩んだし、相手にもひどいことをしてしまった。その話はまたにしようと思う。とりあえず、ステージに立つまではそんな感じで私は生きてきたよ、という話でした。